歯周病とは
気付かない間に進行し、自覚症状が出た頃には手遅れになっていることが多い恐ろしい病気なのです。炎症を起こす原因は口の中の特有の細菌によるものだと言われていますが、口の中の環境、体の抵抗力、遺伝、食生活など色々な要素が合わさって発症、進行していきます。そして一度進行してしまうと、治すことが大変難しくなります。そのため歯周病を予防するには、口の中を定期的にチェックしてもらい、早期発見、早期治療することが大切になってきます。
歯周病はどのように進むのでしょうか
歯周組織の炎症により歯と歯肉の境目の歯肉溝(0.5~2㎜)が病的に深くなったものを歯周ポケットと呼びます。ポケット内は嫌気性菌である歯周病菌が生息しやすい環境で、プラークが付着、増加しやすくなります。このため、周りの組織がより深く破壊されポケットがさらに深くなるようになります。
歯肉炎では歯槽骨は無事でも、歯肉が腫れて歯肉溝が深くなり、これを仮性ポケットを呼びます。
歯槽骨が破壊され始めると歯周炎といい、真性の歯周ポケットと呼ばれ、軽度歯周炎で3~5㎜、中等度4~7㎜、重度では6㎜以上となります。
歯槽骨の破壊にともない歯はぐらつき、歯根の長さの半分以上に歯が吸収された重度歯周炎では自然に抜けることもあります。
プラークってなんでしょう?
2、3日歯磨きをさぼると、歯の表面にうす黄色っぽい食べかすのようなものが溜まってきます。これは歯垢(細菌性プラーク)といい、う蝕や歯周病の直接の原因をなるものです。そしてその成り立ちから、それをバイオフィルムとも呼んでいます。
プラークとは、配水管や浴槽の内側に一層付着する水垢のようなもので、硬い物質と水との境界面にできやすい微生物の集落(塊)です。
私たちの口の中には、何百種類もの微生物(細菌)が暮らしています。これを口腔内常在菌といいます。プラークの中に住みつく微生物たちは、最初はあまり悪さをしないタイプの微生物たちですが、歯の表面で食べかすの中の砂糖(ショ糖)を利用しながら集落を作り、その範囲を徐々に広げていきます。これを、放置しておくと、だんだん凶悪な微生物たちに変わっていきます。それらは空気の少ない環境が大好きなグラム陰性嫌気性桿菌と呼ばれる歯周病の原因菌で、歯周組織を破壊するためのさまざまな働きをすることが知られています。
歯の表面にこの細菌性プラークであるバイオフィルムが作られ、それが歯肉を腫らしたりすようになるまでには、一週間程度を必要とします。
歯周病ってうつるの?
歯周病菌は家族単位で伝染します。つまり親子間での垂直感染や配偶者間での水平感染が起こっています。
歯周病菌は歯周ポケット内だけでなく舌表面、粘膜表面にも存在し、唾液は家族内での細菌感染減です。世話をしたり一緒に遊ぶ際の親から子どもへの感染や、キスによる夫婦間の感染が考えられます。特に夫婦間での感染は25~33%と言われています。
歯周病も生活習慣病です
歯周病も生活習慣病です。生活習慣病とは、食習慣、喫煙、運動習慣、過労、飲酒などの生活習慣が不適切であることが関与して生じる疾患をさします。以前は成人病と呼ばれていましたが、1996年に厚生省(現、厚生労働省)は生活習慣病を名称を変更しました。病気の「早期発見、早期治療」から、国民の生活習慣病の改善による病気の「発症予防」へと考え方が変化しているのです。
歯周病が糖尿を悪化させる
糖尿病が歯周病を悪化させます。それは、糖尿病による高血糖で血管基底膜が肥厚する血管症がおこり、これが種々の合併症の原因で歯周病も悪化します。さらに糖尿病では、細菌を食べてくれる免疫細胞、特に多形核白血球といわれるものの機能が低下し、また細菌への免疫反応によるコラゲナーゼの機能亢進でコラーゲン線維の破壊が進むことで、歯周病はより悪化するのです。
歯周病と心臓血管疾患について
歯周病が心臓血管疾患を悪化させることがあります。
心内膜といわれる心臓の内側の膜や弁に血液を介して細菌感染がおこると、細菌性心内膜炎といい、心不全につながることさえあります。歯科治療、特に抜歯との関係が古くから知られていますが、歯周病原因菌が心内膜炎から検出されたという報告もあります。
歯周病患者で歯肉の炎症がひどくなると血中のフイブリノーゲンが増加して血液の流動性が低下し、また、歯周ポケットからの持続的な細菌の侵入で免疫細胞、特にマクロファージの活動を増やして動脈壁の硬化をひき起こし、結果として血栓形成を促進します。このことから心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患を悪化させることがあります。
歯周病と呼吸器疾患について
歯周病と誤嚥性肺炎には深い関係があります。
老人や手術後の患者などで嚥下反射が弱まり、誤って唾液が気管に入ってしまうと、歯垢(プラーク)にいる細菌が灰に感染して肺炎が起こるのです。プラーク中には肺炎球菌などが共存しているためですが、歯周病と関連した嫌気性菌も作用して肺炎をより増悪させることがあります。
また、歯周病菌に対する免疫反応で増えたサイトカインと呼ばれる物質が、歯周ポケットから唾液中に出て肺に誤嚥されると、炎症反応を刺激して肺炎を起こしやすくしたり悪化させたりします。
歯周病のセルフチェック(危険度大)
自分で歯周病になっているかどうかのチェックをしてください。
こういう症状がでていたら要注意です。
(1) 歯肉に痛みがある。
(2) 歯が長くなってきたような気がする。
これは歯肉が下がったために歯がのびたように見えるのです。
(3) 歯がぐらぐらし、歯の隙間が広がった。
歯周病が進んでくると、歯槽骨がなくなり歯の動揺が起きます。また、移動がおこり歯の隙間が広がってきます。
(4) 歯が揺れて食べ物をかみ切れない。
歯を支えている土台(歯槽骨)がなくなって、歯が動き固いものが食べにくくなります。
(5) 歯肉から血が出やすい。
歯肉の炎症のため充血が起こり血が出やすくなります。
(6) 歯肉を押すと膿がでる。
歯周病菌と戦って死んだ白血球が膿となるのです。歯周炎がかなり進行している証拠です。
歯周病のセルフチェック(危険度少)
歯周病の危険度が少し小さいチェック項目です。
(1) 口臭がある。
歯周炎が進んで膿がでるようになると、口臭がひどくなります。
(2) 朝起きたとき口の中に粘ついた感じがする。
(3) 水を飲むと歯がしみていたい。
歯周病が進み歯槽骨の吸収が起こり歯根が露出するとしみることがあります。
(4) 歯肉が赤く腫れている。
歯肉の炎症で充血が起こり赤く腫れます。
(5) 歯肉がむずがゆい。
歯周病の基本的な治療
治療計画にもとづき、通常まず歯の汚れ(歯垢)を取り除くことからはじめます。これをプラークコントロールと言い最も重要なことです。歯磨きで取りきれない歯石などの汚れは、歯科医師や歯科衛生士がきれいに取り除きます。このように歯や歯の周りをきれいにする治療を歯周初期治療といいます。治療の結果を再度の検査により確認し、良くならない部分には歯周外科治療を行う場合もあります。
歯周病が改善すれば、かぶせたり入れ歯を入れたりすることが安心してできます。
歯周病の治療は良くなったからと言って終わりではなく、一生口の健康を保つには歯科医師・歯科衛生士による定期的なメンテナンスが必要です。
位相差顕微鏡
位相差顕微鏡で口腔内のプラーク検査を行います。
歯周病化学療法
歯周病を、化学療法剤(抗生物質・抗真菌剤)を使って治療する方法を行っています。
歯周病の原因は歯の表面についたプラークですが、このプラークはカンジダ菌といわれる真菌と歯周病関連菌の塊であることがわかっています。そこでこの細菌や真菌を化学療法剤で出来るだけ減らそうというのがこの治療法です。
アジスロマイシン系抗生物質(ジスロマック)の服用とアムホテルシンB製剤(ハリゾン・ファンギゾン)でのブラッシングを平行して行ってゆきます。
一から二週間で効果が現れてきます。
ただし、これだけで歯周病が完全に治ってしまうことはありません。正しいプラークコントロールや歯石除去、噛み合わせの調整などの基本的な歯周病治療と併用することで効果がでてきます。